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雑誌『さーじゅ』における中森明夫氏のコラム1983年10月号


雑誌『さーじゅ』における中森明夫氏のコラム1983年10月号漫画ブリッコの世界

※下記の文章について
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「本に関する情報」

(東京おとなクラブ特派員)中森明夫

◎西武新宿駅ビル『ペペ』の5Fにあるまんが専門店・書原でレジのおばさんが言っておりました。「手塚治虫の『ブッダ』の単行本が出るたびに買いにくるお客さんがいるのよ。それしか買わないんだけどね。ほら和田誠の奥さんの平野レミとかいう人がいるじゃない、その人の弟さんだとかで。ホラ、なんかお父さんがお化けの研究かなんかやってらっしゃるっていう…」となると、あの平野威馬雄先生の息子さんってことでしょうか?
◎河出書房新社編集部編による写真集『死者が語る戦争』というのがエグイ!!《1937年の日中戦争から82年西ベイルート難民虐殺まで、いま、もの言わぬ死者からのメッセージを…》とゆーわけで、これは戦場の死体写真の集大成なのだ。頭が砕けて目ん玉が飛び出してるのやらなにやらで死々累々のオンパレエド、こおゆうの見ちゃうともーとうぶんゴハンがノドを通んなくなっちゃいそう。以前『広告批評』の反戦特集で、”戦争の顔”なんてのもあったけど、『写真時代』や『フォーカス』でならされた不感症世代のフリークス好き少年少女がキャイキャイ喜んで楽しんじゃいそーな、この手の写真集の隠された購買層を考えると、向田邦子さんのサンマ写真の思い出とともに複雑な心境に陥ってしまう。
◎別冊宝島の一冊として出た『アメリカを読む本』は強力なアメリカ関係ブックガイドの決定版だ。巻頭の青山南・川本三郎対談でもわかるように、以前出ていた『ハッピーエンド通信』人脈のセンス(冬樹社の『アメリカ雑誌カタログ』『ヘビーピープル』なんかでおなじみ)が横溢してる。わりと河出の年鑑ブックカタログと同パターンの編集みたいだけど、中でも『朝日ジャーナル』や『スタジオ・ボイス』で近頃売出し中の若手ライター、生井英考選手の、頭のいいシティーボーイといった感じのセンスキラキラ文章には参ってしまう。実物はなかなかの美男子ですし期待二重丸!
◎週刊朝日でおなじみで、先頃『デキゴトロジーイラストレイテッド』(新潮社)を上梓された夏目房之介先生は、なんとあの明治の文豪・夏目漱石の直系のお孫さんだって知ってた?以前サン出版より『ザッツ・パロディ』なる強力おもしろパロディまんが集成を出版されたりもしておりまして、『東京おとなクラブ』第3号では、中森明夫氏の『前頭葉切除女子大生の系譜』のイラストも描いていただいたりしました。そーいえば『広告批評』7・8月合併号、まんが形式による現代文化論では夏目氏の絵のほうが天野編集長の原作をかるーく越えちゃってたみたいでした。
◎本家『コミックボックス』隔月刊化のお知らせのわりに、なかなか出ないなぁなんて思ってるところへ、突然創刊の『コミックボックスジュニア』。なんだかまんがマニア版『ポンプ』みたいな感じだね。あっそうそう、そん中の『東京おとなクラブ』紹介にこんな部分があった。「ただし中森明夫の文章は、元ネクラ少年の近親憎悪にしかすぎないよーで美しくない」だってさ。『おたく』の怨みはコワイ。
◎『漫画ブリッコ』(セルフ出版)誌上でウジウジネクラマニアを論じて評判だった本誌中森明夫先生の『おたくの研究』が急遽連載打ち切りのウワサ。「あなたの文章は身体障害者のことを指して、いかにもそれが不快な存在であるか述べ、自分は健常者だと胸をはっているようなものです」(9月号読者欄より)だそうですが、身障者と『おたく』ってのは全然別物じゃないでしょうか。一緒にしちゃ、身障者にとっても『おたく』にとっても失礼です。しかし「一方中森君の方も困ったものだと思っておりました。中森君もある意味で『おたく』の一員であるという自らの立場が分かっていないだろうからです。相手の立場をからかうなら自分の立場をふまえてからでないと、単なる誹謗中傷に終わってしまいます。その意味で非生産的な中森君の文章は困ったものだと思い、改善を求めておりました」(編集部より)というのは百も承知で、おたくにならずんばおたくを得ずではないが、それこそ世の中誰もが『おたく』なのだ、人間は『おたく』的生物である、ということこそ言いたかったんだけど、どうやら通じなかったみたいね。それと、なにも生産的な文章を書くつもりもなかったのだ。なんだか弱い者いじめのクラスのガキ大将が緊急ホームルームでクラス全員につるしあげられているよーな図だが、青林堂から『花開く家族天国』を上梓された同じく弱い者いじめの王・根本敬氏なども、『ガロ』編集部にしきりに彼のマンガを掲載するなという投書をしてくる人に悩まされてるらしい。「長野県の郵便局員で、数年前に上京して美学校近辺をうろうろしていたがアパートが見つからず長野県に帰ったのだという。当時その人を知る人によると、その根本排斥ゆうびん局員氏、顔に大きなコブがあるらしい」(「即席おとな倶楽部」第2号より)。こう言った弱い者いじめをしていた人間が、逆に弱い者によって復讐されるという、たとえば中森明夫、たとえば根本敬、たとえば戸塚宏などという近頃の例を考えるに、かつて第二次大戦中ドイツ占領下のフランスで『虫けらどもをひねりつぶせ』等のユダヤ人撲滅のカゲキ文章を書き、カゲキ過ぎてナチからも疎まれ、結局戦後ナチ協力の烙印を押されて、不遇の晩年を送ったセリーヌ(彼の墓はそこいらの汚い石みたいのにただ一字「否(ノン)」と書かれている)のコトに思いをはせずにはおれない。とにかく、今もっともシンパシーを感じて、それにどうやら女のコの好みも同じように思える根本敬には、迫害に負けずにガンバッテほしいところだ。