『おたく』の研究(2)
『おたく』も人並みに恋をする?
中森明夫
(1983年7月号)
※下記の文章について
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さて前回は、この頃やたら目につく世紀末的ウジャウジャネクラマニ
ア少年達を『おたく』と名づけるってとこまで話したんだよね。『おた
く』の由来については、まぁみんなもさっしがつくと思うけど、たとえ
ば中学生ぐらいのガキがコミケとかアニメ大会とかで友達に「おたくら
さぁ」なんて呼びかけてるのってキモイと思わない。
そいでまぁきゃつらも男なんだから、思春期ともなればスケベ心のひ
とつも出てくるだろう。けどあのスタイルでしょ、あの喋りでしょ、あ
のセーカクでしょ、女なんか出来るわきゃないんだよね。それに『おた
く』ってさぁ、もう決定的に男性的能力が欠除してんのよね。でたいが
いはミンキーモモとかナナコとかアニメキャラの切り抜きなんか定期入
れに入れてニタニタしてるんだけど、まぁ二次元コンプレックスといお
うか、実物の女とは話しも出来ないわけ。これがもうちょいマシになる
と、女性的存在をあんましアピールしないアイドル歌手のほうへ行った
り、屈折してロリコンしたりするってわけ。それで成熟した女のヌード
写真なんか絶対受けつけないんだよね。僕の知ってる男で、人が親切に
ビニ本見せてやろうってのに、「よせ!キタナイッ」なんてわめいて必
死で目をそらす奴がいたけど、まぁそいつは今『COMIC BOX』
の編集やってるけどさ、そんな感じなんだよ。
でそういう奴らでも唯一許せるのが、あのおたく雑誌『GORO』で
やってる紀信の激写なのであった。ホラ、くみこクンにお手紙を書いて
みませんか、気に入ったお便りには彼女が返事をくれますっていうあれ
だよ。もう考えただけでゾッとするけど、編集部には何万って『おたく』
からの手紙がギッシリと届いてんだぜ、きっと。オエ~~。げんに最近
出た激写の別冊のお便り欄、もうおたく手紙がいーっぱい。激写が出る
の待ちかねて隣り町の書店まで行ったとか、気に入った女のコは切り
取ってファイルしてるんだけど(ここがいかにもおたく的ね)そのファ
イルを女房にみつかっちゃってヤバイ!なんてゆってる26歳の会社員と
かさ、○○子クンに捧げる詩なんて作ってくる奴はいるわ、もうそんな
のばっか、頭痛くなっちゃったよ。でもいるよね、四畳半の薄汚ない下
宿の本棚にビシーッと『GORO』のバック・ナンバー折り目ひとつつ
けずに保存してる奴が。中には保存用とナニ用に二冊ずつ買ってるって
奴もいるぐらいでさ。
それにさぁ、奴ら男性的能力が欠除してるせいか妙におカマっぽいん
だよね。二十歳越えた大の男がだよ、お気に入りのアニメキャラのポス
ターが手に入ったとかで、うれしさのあまり「わーい」なんちゃって両
ひざそろえてL字型にうしろに曲げ、ピョンって跳びはねてみせたりさ
(この“両ひざそろえL字曲げぴょんハネ”が奴らのフシギな特徴ね)
ドジ踏んだ時なんか「ぐっすん」なんてゆって泣いたふりしたりさ、キ
モチ悪いんだよホント。だいたいこんな奴らに女なんか出来るわけない
よな。
でもさぁ、結局世の中誰でも最後は結婚するんだよね。で『おたく』
は誰と結婚するのかなぁってずっと不思議だったんだけど、おそろしい
事実に気づいたね。なんとこれが、『おたく』は『おたくおんな』と結
婚して『おたくこども』を生むのであった。ジャンジャン。