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『おたく』の研究 第1回


『おたく』の研究 第1回漫画ブリッコの世界

『おたく』の研究(1)

街には『おたく』がいっぱい

中森明夫

(1983年6月号)


※下記の文章について

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また、この文章の著作権は、中森明夫氏にあります。

コミケット(略してコミケ)って知ってる?いやぁ僕も昨年、二十三

才にして初めて行ったんだけど、驚いたねー。これはまぁ、つまりマ

ンガマニアのためのお祭りみたいなもんで、早い話しマンガ同人誌や

ファンジンの即売会なのね。それで何に驚いたっていうと、とにかく

東京中から一万人以上もの少年少女が集まってくるんだけど、その彼

らの異様さね。なんて言うんだろうねぇ、ほら、どこのクラスにもい

るでしょ、運動が全くだめで、休み時間なんかも教室の中に閉じ込も

って、日陰でウジウジと将棋なんかに打ち興じてたりする奴らが。モ

ロあれなんだよね。髪型は七三の長髪でボサボサか、キョーフの刈り

上げ坊っちゃん刈り。イトーヨーカドーや西友でママに買ってきて貰

った980円1980円均一のシャツやスラックスを小粋に着こなし、数年

前はやったRのマークのリーガルのニセ物スニーカーはいて、ショル

ダーバッグをパンパンにふくらませてヨタヨタやってくるんだよ、こ

れが。それで栄養のいき届いてないようなガリガリか、銀ブチメガネ

のつるを額に喰い込ませて笑う白ブタかてな感じで、女なんかはオカ

ッパでたいがいは太ってて、丸太ん棒みたいな太い足を白いハイソッ

クスで包んでたりするんだよね。普段はクラスの片隅でさぁ、目立た

なく暗い目をして、友達の一人もいない、そんな奴らが、どこからわ

いてきたんだろうって首をひねるぐらいにゾロゾロゾロゾロ一万人!

それも普段メチャ暗いぶんだけ、ここぞとばかりに大ハシャギ。アニ

メキャラの衣装をマネてみる奴、ご存知吾妻まんがのブキミスタイル

の奴、ただニタニタと少女にロリコンファンジンを売りつけようとシ

ツコク喰い下がる奴、わけもなく走り廻る奴、もー頭が破裂しそうだ

ったよ。それがだいたいが十代の中高生を中心とする少年少女たちな

んだよね。

  考えてみれば、マンガファンとかコミケに限らずいるよね、アニメ

映画の公開前日に並んで待つ奴、ブルートレインを御自慢のカメラに

収めようと線路で轢き殺されそうになる奴、本棚にビシーッとSFマ

ガジンのバックナンバーと早川の金背銀背のSFシリーズが並んでる

奴とか、マイコンショップでたむろってる牛乳ビン底メガネの理系少

年、アイドルタレントのサイン会に朝早くから行って場所を確保して

る奴、有名進学塾に通ってて勉強取っちゃったら単にイワシ目の愚者

になっちゃうオドオドした態度のボクちゃん、オーディオにかけちゃ

ちょっとうるさいお兄さんとかね。それでこういった人達を、まあ普

通、マニアだとか熱狂的ファンだとか、せーぜーネクラ族だとかなん

とか呼んでるわけだけど、どうもしっくりこない。なにかこういった

人々を、あるいはこういった現象総体を統合する適確な呼び名がいま

だ確立してないのではないかなんて思うのだけれど、それでまぁチョ

イわけあって我々は彼らを『おたく』と命名し、以後そう呼び伝える

ことにしたのだ。

  どうして『おたく』って名づけられたのかとか、『おたく』とは何

かなんて疑問には次回からゆっくりと本格的に答えていくことにして、

でもなんとなく感じつかめるでしょ、君の廻りを見廻してごらん、ホ

ラいたいた、『お・た・く』が――――

  ところでおたく、『おたく』?